無視する声/ブライアン
 
国際的なホテルの前には、立派なスーツを着たベルボーイが立っていた。
駐車場から出る車の警告音が鳴らされる。
人々は、まだ見ぬ車の姿におびえ、左右どちらかに少しばかり、ずれる。

大きな旗と、大きな声、スピーカフォンで、
不当解雇を訴える人々がたむろする。
劈く激怒は、ホテルの宿泊者たちに聞こえているのだろうか。
毎日繰り返される車の送り迎えを、ベルボーイたちは遂行するばかりだ。

 訴える人々は、「使えない」人間として、解雇された。
 「あいつは使えないから仕方ない」とロッカールームでも話すことだろう。

スーツ姿の30代くらいの男性が、怒りに歪んだ顔で交差点を横切ってきた。
不当解雇を訴える人々に共感したのだろうか。

 「使えない」とは何であろう?
 基準、利益、個人差。

怒りに歪んだ男は、彼らの前に行き、スピカーフォンを分捕り、
男自身の怒りをもこめて、彼らを弁護することはなかった。
男は怒りをにじませたまま、交差点の信号が青になるのを待つだけだった。

そして、僕も同じように。

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