可能世界と現実世界/和泉蘆花
 

わたしの脳に誰かがベジェ曲線を描いている。
そう、これからわたしは胡桃になるのである。
幾重にも曲線が描かれ、その細い糸はわたしの想像を拘束する。
リターン 。 …120度 。
リターン 。 …30度 。
リターン 。 …80度 。
胡桃に仕上げられてゆくわたしは、
万華鏡の世界の光の糸を一本一本と失ってゆく。
黒い螺旋。
光のワルツはテンポを下げる。
退化する蝶はくるりくるりと落ちて、
しまいには蛹の殻へ戻ってゆくのだ。
ふと、体内回帰だと思った。

胡桃になったわたしは意外にも思考することが可能だった。
しかし、創造性の世界への扉は絶たれている。
外部を遮断
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