眠れない/水町綜助
 
いま銀縁の壁掛け時計に蠅がとまり

文字盤を透かしたガラスの上を音もなくあるくまず12から




鉄の壁が溶ける
溶けて落ちてすべて床に染み込んだ
夕暮れだった
聖人がひとりうまれたらしい
お祝いの雑穀と肉饅頭を持って
みんなで笑いあって西へ向かった



親方が膝をぴしゃりとたたいた
石油ストーブでは僕の汗は煮えたち
薬缶は踊り始めた
湯気が雲になって
サンドイッチがふやけて食パンが一枚剥がれた



聖人の名前は
昨夜の
夢の
水先案内人愛用の
櫂の
名前
花の名前
その香りの理由



高速道路は夜を滑り出す
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