朝の挨拶/Six
 
押入れの中に詰め込まれた
古い衣類はしわしわになったまま
寒い夜にはそのまま冷えて
家で母と一緒に年を越す

滅多に開けられることのないふすま
取り出されることのない衣類
毎日開けられるのは仏壇の扉
母は死者たちに向かって朝の挨拶をする

座敷の鴨居の上にずらりと並んだ
死者たちの白黒の写真
安物の置時計の秒針は
一月は行く、二月は逃げる、
と念仏のように呟く

モーニングカップに入った濃いコーヒーを
仏壇に供えながら、母は
死んだ父と少しだけ何か内緒話をし
死者たちの写真の額のガラスが
コーヒーの湯気でくもってくる
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