蒸発王/蒸発王
 
この街が奇病に犯され始めたのは
冬が明ける前だった


『蒸発王』



最初の目撃は
髪の毛だったらしいが
全ての症状は同じだった


蒸発する


感染には
物体も生き物も区別は無かった
建物も路も木も水も
そして人も
小さく笛を吹くような音と共に
蒸発が始まった
さらさらと
砂煙のような水滴が
街中のいたる所がら吹き出る
固いコンクリートや
丈夫な岩石などは
どうにか形を残していたが

人間はあっという間だった


とくに
老人や病人
疲れて弱っている人間は
ことの他早く蒸発し
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