路上の手袋 /服部 剛
 
。ハンドルを握る片方の白い手
が、やけに寒い。毎年冬になると、毎朝・毎
晩、僕の冷えた寂しい手をあたためてくれた
手袋に、ありがとうの言葉もいえないまま、
あっけなく僕らは離れ離れになってしまった。 

僕はまた新しい手袋を買って、寒がりなこの
手をあたためることだろう。今夜も人知れぬ
寂しさを抱えた誰かの白い吐息が、この夜の
何処かで昇ってる。やがて忘れ去られてしま
うであろう、すべての想い出へと路上に落ち
た手袋の姿は遠ざかり、過去へと葬られる。





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