朽葉色/1486 106
病室の窓から見える金木犀の葉は
季節の変化と共に舞い落ちる
その葉は最後の瞬間まで
生命の光を放ち続ける
彼女は春からずっと此処にいる
医療の限界を超えた力に
少しずつ細胞が蝕まれていく
毎晩訪れる激しい痛みや
押し寄せてくる不安を前に
彼女は涙一つ流さないでいる
蝉の鳴き声が静まりかえった頃
彼女は起き上がれなくなった
食事をするにも散歩をするにも
誰かの助けが必要になった
少しずつ不自由になる体や
近付いてくる期限を前に
彼女は涙一つ流さないでいる
本当は悲しいのかもしれない
それは誰にも分からないけど
張り裂けそうな気持ちを隠しながら
彼女は涙一つ流さないでいる
朽葉色の夕陽が差し込む部屋で
一つの命が病魔と闘っている
線引きされた未来を前に
弱音一つ吐かないで生きている
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