創書日和「炎」   かげろう/逢坂桜
 
  「冬から春へと変わっていくだろう?陽射しとか」
  わたしはうなずいて、コーヒーをひとくち飲む。
  「ふと思い出すんだ」
  またしても、わたしはうなずく。
  夫はまだ、コーヒーを飲んでいない。
  「言い訳じゃないけど、いつも考えてるわけじゃないよ」
  わたしはうなずく。
  「あれからもう20年経っただろう?おまえと結婚しても10年だ」
  コーヒーを忘れた夫の熱弁は続く。
  確かに20年経ったが、結婚は12年2ヶ月だ。
  「やましい意味じゃないさ。ただ、ふと、思い出すんだ」
  また、わたしはうなずく。
  「春先の・・・陽炎のような・・・なぁ?」
 
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