瑪瑙の牡鹿/蒸発王
私の右目には
鹿の眼球が入っている
『瑪瑙(めのう)の牡鹿』
父は猟師だった
山里は畑もあるけど
狩猟も盛んで
私の父も
例にもれず鉛玉を放っていた
たーん たーん
たーん たーん
そんな音が
山のほうから木霊すると
決まって
父は大物をしとめて帰ってきた
父は
鹿をよく持ちかえってきた
私が右目を失ったのは
産まれて間も無く
事故でもなければ
病気でもなく
売られたのだ
私の瞳は右だけが
人ならぬ色をしていた
質屋は
まだ日の目を浴びて
三日と経っ
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