alpha108号室〜ねこ〜/コトリ
歩道の片隅で その猫はさびしく倒れていて
彼女の目は逸らさせたつもりだったのだけれど
うまくいかなかった
あまりにかなしいその光景を
彼女は立ち止まり
不自然すぎるほどに見つめていた
−この猫はどうしてしんだの。
−傷ひとつないもの。
−どうしてしんだの。
行き交う人が振り向いて僕らを見ている
好奇の目
そして猫を見ようとはしない
忌むべきもの
動こうとしない彼女を促すために
うそをついた
−猫はしあわせすぎてしんだんだよ。
−宝くじでもあたったんだ。
彼女は、それならよかったと微笑んだ
−でも、わたし知らなかった。
−猫は立体的にしぬのね。
−かなしいね。
ぼくらはさっきより強く手をにぎって
家という名前の
マンションの一室へ
寒空の下を歩きはじめた
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