いつかの梨/ゆうさく
 
僕が少し思春期に染まり始めた
中2の夏
おじいちゃんの家から
自分の家に帰る日

おじいちゃんの声がして
2階から降りてくる
階段の天井には
手を伸ばせば届きそうだ
のしのしと足音を立てながら
2階から降りてくる

「なし食わんか?」
しわしわの手で
つまようじが刺さった梨を
そっと差し出す

僕は一言
「いらない」

おじいちゃんの寂しさ
螺旋(らせん)状に連なって
夕日の光と絡まりながら
僕全体を包み込む

帰り際
僕が食べなかった、
干からびて少し色がついた梨は
僕をじっとにらみつけている

僕は目をそらし
いつものように
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