便所のかみさま /服部 剛
 
地下鉄の風に吹かれて 
灰色の階段を上がる 
地上に出る前に 
用を足そうと 
便所にゆく 
入口に 
「 只今清掃中 〜そっと入ってください〜 」 
という看板が立っており 
たじろいで、足を止める 
なかから 
デッキブラシで ごしごし と 
タイルの床を磨く音 
忍び足で入ると 
白髪まじりで細身のおばちゃん 
きびんに働き 
まほう のようにきれいになってゆく 
便所の床 
瞳をとじて 耳をすませば 
誰のこころにも一番 ほっ とする 
便所のような場所がある 
 
小人になったかみさまは 
ぼくのこころにたちこめる 
日々の暗雲を 
まほう のブラシで掃(は)いている 
不思議な音が聞こえる 
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