蜻蛉の夢/蒸発王
 
帰省の列車の中で
こんな夢を見た


『蜻蛉の夢』


満月の夜
月下美人のつぼみの下で
細身の女性が横たわっている


彼女の肌は
食べ物が喉を通ったら
透けてしまうくらいに白く
その中で唯一赤い唇も
可憐な薄付きの唇だった
切れ長に開いた目蓋の底には
黒曜石のように黒目がちな瞳が
満天の空を仰いで
輝く星を映していた
目と同じ色の髪は鋭いくらいの艶を滲ませ
さらさらと肩口に流れていた


細く華奢な彼女の指に
自分と同じ色の指輪が収まっているのを
不思議に思いながら

良く見ると

彼女の首後ろの付け根から
長い黒髪にまぎれて

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