記念写真/んなこたーない
おそい夏の日の海岸に
光が二筋 射し込んで
無人のボートが沖合いへと流されてゆく
それを呆然と眺めている
あの少年は一体誰か
ぼくの寝室の壁には
一枚の記念写真
姉が首に花飾りをかけて笑っている
母はいつものように表情を押し殺している
(まるで母というものはいつでも表情を押し殺すものだと言わんばかりに)
少年は敵意に満ちた鋭い目つきを光らせている
(その少年はぼくではない)
彼らが揃って見つめているものは一体何か
そして このシャッターを押したのは一体誰か
窓もドアもない密閉されたこの部屋で
夏が来るたび ぼくはよく悪い夢を見た
いま ボートは水平線の彼方へ消えて
波が少年の足元を洗っている
悲しみよ さようなら
悲しみよ こんにちは
これから季節は秋へと変わる
(同時にぼくの悪夢も終わる……)
風が少年の頬をなでてゆく
少年の捲き毛を梳いてゆく
波はやっぱり少年の足元を洗っている――
洗い落とせない いくつかの場面をそのままにして!
[グループ]
戻る 編 削 Point(2)