ある男とある人形/テルテル坊主
夜の街に君がいた
真っ赤な口紅を塗って
喋る事無くにっこり笑って
店先にちょこんと座って
そこは俺の家への帰り道
毎晩見かけるその姿は
思わず僕をハッとさせる
でもその笑顔は少し悲しそうで
疲れてるみたいだった
ある晩の事
その日は雨が降ってたね
いつもの帰り道
いつもの場所にいる君は
雨にぬれて
笑ってるのに
黒い涙を流していたね
あの時の悲しそうな笑顔
見間違えじゃなかったんだね
僕は傘をさしてあげて
ハンカチで顔を拭いてやったんだ
綺麗な顔になった
彼女は何にも言わなかったけれど
僕の去り際
背を向けた僕に向かって
「ありがとう」
そう言った気がした
戻る 編 削 Point(1)