侘歌/朱雀
 
薄ら氷(ひ)染める朝影は

思い焦がれた凍て蝶の

きらと溶け合う

玄冥の吐息(いき)―――


砂絵のように脆い心で

消(け)残る跡を 思い染(し)め

鞘絵のように歪んだ夢を

静寂(しじま)にぽつり 写し見る


儚く消えゆく さだめなら

擦(かす)る欠片の冷たさに

名残を遺し 散りゆかん

いっそ 砕いてくれまいか?






【凍て蝶】冬まで生き延びて、ほとんど動かない蝶。また凍てて死んだ蝶。
【きら】蝶などの羽にある鱗粉。
【玄冥】刑殺を司る、太陰、冬、北方の神。転じて冬の異称。奥深くかすかなこと。真理の奥深いさま。
【鞘絵】刀の鞘に映して見る絵。横に平たく描いた絵で、湾曲面に写して見ると形が正しく見えるもの。
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