下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
 
ってるわよと
 妻は答え、そのまま
 彼の前を歩き去った
 あんたはどうしてる?という
 軽い受け答えすらない妻の背中を
 彼は何となく目で追うのが
 やっとだった
 それから
 たまに仕事をさせてもらう
 地元の宅配便の会社の社長に
 久しぶりに会った妻の印象を
 訊ねられたとき、彼は笑いながら
 こう答えた
 あいつ、ぶくぶく太りやがって
 幸せ太りってやつですよ
 もう壊れた掃除機より
 使い物になりゃしねぇ



 
 仕事仲間だった連中と
 週に何回か
 なじみの喫茶店で
 自分でやることはないが
 パチンコや競馬の話の輪に加わり
 た
[次のページ]
戻る   Point(9)