下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
ってるわよと
妻は答え、そのまま
彼の前を歩き去った
あんたはどうしてる?という
軽い受け答えすらない妻の背中を
彼は何となく目で追うのが
やっとだった
それから
たまに仕事をさせてもらう
地元の宅配便の会社の社長に
久しぶりに会った妻の印象を
訊ねられたとき、彼は笑いながら
こう答えた
あいつ、ぶくぶく太りやがって
幸せ太りってやつですよ
もう壊れた掃除機より
使い物になりゃしねぇ
仕事仲間だった連中と
週に何回か
なじみの喫茶店で
自分でやることはないが
パチンコや競馬の話の輪に加わり
た
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