下敷きになった卵みたいに/カンチェルスキス
 
男と家庭を持ち
 そこに妻も避難して
 離婚は成立した
 そして彼は独りになった




 団地の6階に暮らし
 わずかな退職金を頼りに
 夕食のおかずは
 8時以降のスーパーの
 半額の惣菜や焼き魚と
 自分で作った一品が多かった
 ごはんはまとめて炊き
 余った分は
 ラップに包んで冷蔵庫に保存し
 食べるときにその都度
 電子レンジで温めた
 



 一人暮らしにも慣れた頃
 彼は元の妻と
 近所でばったり
 出くわした
 再婚相手を見つけた妻は
 ふくよかで健康そうだった
 元気でやってるか?と
 彼が訊ねると
 元気でやって
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