「 蒲鉾と犬と、月。そしてあたし。 」/PULL.
空いているのか、
あたしに餌をねだってきた。
青みがかった灰色の尻尾を振り振り、
あたしの周りをぐるぐる回る。
「あたしなんにもないよ。」
言っても聞かず、
ぐるぐる回り続ける。
犬は素直でも犬だ。
よく見ると、
意外に、
いい毛並みをしている。
月明かりに照らされ、
その毛並みが、
さらに青みがかって見えた。
「おまえすてられたの。」
犬は答えず、
黙ってぐるぐる回る。
「おまえもすてられたの。」
犬は回るのを止めて、
あたしを見上げた。
物欲しそうな目であたしを見上げた。
泣きたく、
なった。
捨てられた犬に見上げられて、
捨てられた
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