「 蒲鉾と犬と、月。そしてあたし。 」/PULL.
蒲鉾がなくなったので、
あたしは買いに行く。
近くのスーパーは深夜まで開いている。
あそこの練り物はコンビニのよりも美味しい。
そう彼が言っていた。
自転車に乗る気分でもないので、
歩いて行く。
ぼさぼさの髪のまま、
ぶかぶかのスニーカーを履き、
ぶかぶかのコートを着て、
外に出る。
数週間ぶりの外は、
とっぷりと暮れていて、
あの夜よりも少し明るかった。
見上げた夜空に、
つるんとした、
まあるい月が出ていた。
なんだか白身の練り物みたいで、
とても美味しそうだった。
近道を行く。
スーパーへの近道は、
向かいのウ
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