ある日の新婚生活/和泉蘆花
魚の小骨が咽に刺さった
僕はあんぐり口を開ける
人差し指と親指で小骨を取ろうとする
その姿はまったく滑稽で
君を十分に笑わせる
僕は解剖学を学ぶべきだったと考える
そしてまた再び小骨を取る努力をする
君は皿に載った魚を食べようとしない
魚は冷えた
僕は魚の口を開け
箸を突っ込んでやる
幾分、魚の方が不利だった
君は魚を冷蔵庫にしまう
少し不安げな顔で
冷えた魚はさらに冷たくなってゆく
僕の咽は熱さを増してゆく
君は笑顔を失ってゆく
不意に君は僕の鼻に胡椒をかけた
僕は酷いクシャミをする
君は笑顔を取り戻す
僕は涙目になる
いや、君こそ解剖学を学ぶべきだった
君は僕の口を開ける
大きく開ける
小骨如きに二人は真剣になる
ひょんな拍子に小骨が取れ
二人に安堵が訪れる
それから二人は軽くキスをして
魚が消えた食卓にきちんと着いた
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