記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」/虹村 凌
 
に舞子と会った。
彼女と少しだけ話した。
彼女は、彼女が使っている香水を、俺の辞書に吹きかけた。
今はもう、そんな匂いは微塵もしないけれど、その匂いはしばらく離れなかった。
いつか、彼女は俺のベッドにもそうしたことがあった。
そんな事を、これを書きながら思い出した。
匂いに、敏感な人間達だった。
俺は舞子の匂いがしたと思っては、誰も居ない雑踏で辺りを見回した。
俺が吸っていた煙草の匂いに、舞子は反応したんだろうか。
少なくとも、一瞬でもそんな事があったに違いない。

飛行機の中で、少しだけ泣いて、眠った。
彼女が俺にくれた煎餅の味を、今はもう覚えていない。
[グループ]
戻る   Point(1)