「軽犯罪日記」 シンナーの練習/馬野ミキ
ぼくたちは静かにシンナーを吸引する
ボンドやパテやガソリンはやらない
誤ってガソリンを飲んだロッテは恋人のアパートで死んだ
その恋人の名前をぼくたちは知らない
ぼくたちは常に純度の高いものをうまく仕入れた
夏休みを有効に使い、市内の建築現場の地図を製作したのだ
ぼくたちはいい具合に知識をなくしつつあった
倉庫街から丁度死角になる位置にあるテトラポットの上で
ダンボールを敷物にして楽な姿勢で遠くを見つめた
気が遠くなったりしたが
しだいにどこが近くでどこが遠いのかも忘れるようになる
翌日のぼくたちは街でそろって異臭を撒き散らし
ぼくたちはポケットに手をつっこんで歩く
太陽は赤でも黄でもなくどちらかと言えば白で
見つめていると少し下に下がる
ぼくたちはそれを太陽がうつむく、と表現する
歯みがきをしても歯がぬるぬるとするので
気持ちの悪い時には何かしら食べたり
大量のスポーツドリンクを飲んだ
ぼくたちは警官やガードマンといった連中から滅法嫌われていたので
よく走った
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