「 つめたくて。 」/PULL.
わたしの妻は冷たい。
どれぐらい冷たいのかというと、
夜中に妻の躯の冷たさで、
飛び起きてしまうほどである。
そんなとき妻に触れていたわたしの部分は、
軽い凍傷を起こしている。
わたしは床を抜け出し風呂場に行き、
熱い湯に浸り治療する。
この姿は妻には見られたくない。
妻はなにも悪くないのだ。
わたしが妻よりもあたたかい。
それが問題なのだ。
妻の朝は早い。
つぐみの囀りよりも早く起き、
その朝の飯を炊く。
わたしはそれまでに治療を終え、
妻の眠る床に戻っている。
妻は言う。
「あなたは眠ると、
揺すっても触っても
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