青い貝殻/銀猫
青い月の下で
唇が切れると
錆びた味は生温く
舌先に現実とゆめとの
境目をおしえて
わたしが誰であったか
あなたが誰であったかを
思い出させる
青い月の下で
繰り返されるくちづけは
少しも甘くはなく
むしろ
痛いくらいに
夜を突き付けるものだ
離れて過ごした時間の隙間を
熱情は埋めてくれない
淋しさ、から等距離にいるふたり
しあわせに空腹なふたりは
何かを求めあって
触れ合わずにはいられないのたが
愛は風化を辿りはじめていて
切れた唇から
遅すぎたことばが滲む
背中から伸びる影はますます黒くなり
闇に溶けるばかり
果実の味は
遠ざかるばかり
青い月の下
われらは欠けた貝殻を握りしめる
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