汚物/カンチェルスキス
 


こめかみが震える
ボタンを掛け間違えただけで
凍傷になった右腕を
いらなくなった左手でどかす


タバコの煙が
消えるのにじれだすと
地上では急に雨が降りはじめる
おれは終電を壊した
甲高い靴音の地下鉄のホーム
出来損ないの壁を見つめ
湿り気に慣れ過ぎた肺だ、
おれはそれを枯らす


これ以上は叫べない領域まで達した声だ、おれは
声だ、おれ自身だ
もう聴覚では聞こえない
伝達を無視し
天井にぶつかって足元で割れた
津波のような破片を
おれはじっと見下ろしていた


手術台の上には
助かる見込みのない
先のない病人たちが
照明に照らされながら、
薔薇の心臓目掛けて
ダーツを放つ


繰り返し汚物が
おれの肉と骨を喰いちぎって、
こんなにもおれは物事が見えにくい






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