犬をめぐる文学的断章/葉leaf
震わせているとき、犬の内部はもっとも冷たく、そして死んでいる。
夕方、犬が吠えている。猫を認めたのである。吠えているとき、犬は、数匹の犬が融合したかのように犬である。猫は犬の前をすばやく横切る。逃げるとき、猫は、自らを構成する数匹の猫が離反してしまったかのように猫である。日光の一部が、犬の毛を軽く梳いている。犬の吠え声は大きいので、しばらく私の衣服に貼り付いて、はがれるどころか衣服の色にまぎれてしまう。犬はさらに吠える。犬の吠え声は遠い円環を走って、空の裏側にいるもう一人の私へと届き、もう一人の私を熱い物体で埋め尽くす。私は目覚めたままもう一度目覚め、そして目覚め続け、やがて目覚め終わる。その間に犬は犬小屋へと戻る。鎖の音が犬の毛色に酷似する瞬間があり、その瞬間に私は、「犬」の核心をつかんだような気がした。
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