犬をめぐる文学的断章/葉leaf
目覚めのとき、夢の表象が、広がり続け硬さを増す内部へと吸収されるとき、あらゆる色を超えた色をした薄片に、「犬」がそっと重ね合わされる。押し寄せてくる覚醒の光や事物、そして世界に対抗して、私は「犬」の重ねられた薄片を、愛読書のように、慈しみ保ち続ける。この時点において「犬」には何の形もなければ色もない。犬の持つあらゆる属性を削ぎ落としてもなお残る、無のようなもの、それが「犬」である。すべての無は「犬」なのかもしれない。だとすると「犬」は非世界を覆い尽くしていることになる。
朝早く犬小屋の前に立つ。朝のあらゆる事物にとって、名前は贅沢な装飾品である。朝のあらゆる事物にとって、闇は辛うじて守り通し
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