ホバリング/佐野権太
透明と漆黒の間
無限階調の青い温度を
滑らかにはばたく
マンタ
重力は知らない
裏返り、途絶えてゆく
浮力の哀しみだけを
白い腹に秘めて
辿りついた系譜は
争い合う知識ではなく
ずたずたに枝分かれした
感情でもない
時の流れに
ただ、従い
巡航する
母のメロディ
細い尾を垂らし
淡く
溶けてゆく
残像
*
常夜灯の陰影
チューブを回したような
乾いた風の音に紛れ込む
遠いサイレン
その行方を
探している
―――加速する僕らは、どこへ
耳の後ろ
かつて鰓(えら)のあった辺りに
指先をあて
口をひらいたり
とじたりしてみる
四億年前のことだ
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