義眼の彼岸花/蒸発王
は義眼を欲しがっていたから
しばらくして
おばあさんの紹介で
知らない人が家に来た
貴方の作った義眼は素晴らしい
眼窩に入れると
幸福な思い出ばかりが見える
是非私にも作って欲しい
どうやら
私が長年受けた幸福は
腹にもたまらず肉にもならず
眼球の中に蓄えられていたらしい
吐き気がした
目蓋の下の目玉がうずく
まだ私の中に
幸福が残っている
此れがあるかぎり
見えなくはなれない
私は死ねない
そう思って
また
眼球を掻き出した
彼岸花が育ち
義眼を孕(はら)んだ
そんな
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