春彼岸/フユナ
 

わたしは幼女になって
あなたに誘拐されたい
ひらひらと
垢ずんでいく赤いスカート


ひとこともはなさない
あなたは
それに気付くことも
ない


わたしたちは
いつか家のあった
日本海のそばを歩いていく


みなそこにもねやはある、と
あなたはいい
そうだ
みなそこにならねやもあるわ、と
わたしはおもう


あなたのくちびるから
真白い花がほろりと落ちる
それはあちらの
あなたに根付いたあちらの
においがする


そんなにも美しい花を咲かせる
あちら

わたしのおもいは
はぜる


わたしは幼女になって
あなたに誘拐されたい
そして水面に
赤いスカートを残していきたい


手を引くこともない
あなたの
その花が
その花を見つめる
それがこの春と
知る






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