創書日和「雪」  桜雪/逢坂桜
 

  雪国で、雪とはおそろしいものだった。
  下界と遮断され、文字通り陸の孤島となる。
  年に何人かは、雪に埋もれて命を奪われた。
  待ちわびた春が山ほどの雪を消し去っても、また雪は訪れた。
  桜雪だ。
  桜の花びらは、濃淡の差こそあれ、薄紅の花びらだ。
  だが、桜雪は、その名の如く、真っ白だった。 
  桜が散ることを吹雪と言うのは、桜雪の真っ白な散り様の為だ。
  あの桜吹雪は本当に、雪と見紛うばかりだった。

  吹雪の中、女が立っていた。

  長い黒髪が風に流され、白い襦袢は強い風にはためく。
  血の気の失せた顔に、眼だけが強い光を放つ。

  かの地、雪国では、雪が降る時、罪が許されるという。
  吹雪での念掛は、未来永劫、絶えることはないという。

  いまもどこかで、
  雪降る時も、雪溶ける時も、
  あの時のまま、あるのだろう。

  決して雪熔けることは、ないのだろう。

  触れることもかなわぬ、狂おしい雪。


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