「歌」/広川 孝治
 
私の歌を聞いてくれる人は
一体どれくらいいるのだろう
私の声はどこまで届いてゆくのだろう

生まれたばかりの頃
私の歌は純粋無垢に
ただ愛を乞うる歌
聞くものすべては眼を細め
優しい抱擁で応えてくれた

思春期の頃
私の歌は陰りを加え
寂しさと孤独を訴える歌
聞くものを傷つけ
うらはらに抱擁をはねのける自分の姿

やがて伴侶を得て守るべき子供を設けた頃
私の歌には迷いが混じり
不安と見栄の絡み合った歌
ある人は眉をひそめ
ある人は肩を抱いてくれる

子供も巣立ち孫も育ち
とうとう妻にも先立たれ
古い家に一人残された今
耳も遠くなり喉も潰れ
かすれ
[次のページ]
戻る   Point(4)