祖母の肛門に指を突っ込んだ日/三州生桑
 

阿屎送尿(あしそうねう)、著衣喫飯(ぢゃくえきっぱん)といふ禅語が脳裏をよぎる。
「悪かったねぇ。ごめんねぇ」
「どうってことない。このくらゐ、僕でもできます」
祖母の機嫌は直ってゐた。

「それぢゃ、明日また来ますね」
病室を出て、エレベーターに向かって歩いてゐると、不意に佳い香りが鼻をつく。
ナースステーションのデスクの上の牛乳瓶に、水仙が数本活けてあった。
花は咲くべきところに咲くのだ!
私は、とてもすがすがしい気分になった。
もし私に孫ができたとして、その孫は快く私の肛門に指を突っ込んでくれるか知ら? 
そんな益体(やくたい)も無い事を考へながら、私は独り帰途につく。



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