忘れんぼう/渡邊永遠
 
悲しみが一つ
悲しみが二つ
数えだしたら、切りがないので

数えてみるのを
止めてみました

嬉しいこと
悲しいこと
切ないこと
苦しいこと

生まれてから幾つ
楽しかったことがあったのか、と聞かれて

正確に、答えられる人はいないでしょう

生まれてから幾つ
辛いことがあったのか、と聞かれて

それもまた
正確に答えられる人もないでしょう

忘れることが出来る能力を誰もが兼ね備えているのは

きっと
生きていく為に必要不可欠だからなのだと

私は信じてやみません

数える度に
その空間にがんじがらめにされて

動けなくなるのは
悲しいこと

数えることを、止めた時から
知らないあなたが
待っているでしょう


悲しみの足跡は
その時々にあなたが流したであろう

涙の海へと溶け込んで
明日への空に還っていきました
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