きみに向けて/銀猫
冬の雨が上がって
しっとりと潤った空気に
小さな蕾が目覚め始める
春と呼ぶにはあまりに早く
陽射が弱々しく届いて
蕾の外側だけがほんのり白く染まる
冷酷な北風には
他愛もない出来事
それを知らずか
窮屈そうに枝に並ぶ丸みは
繚乱を待っている
春を見つけた
微かないのちの芽吹きを
きみに知らせたくなり
薄翠の便箋に言葉を選べば
並べた紺のインクが
待ちきれずに滑り落ちて
ワルツのステップを踏む
愛しい、と綴れぬこころと裏腹に
大きく円を描いて
ふたりの空間が
ひとつの風であるように
踊る、踊る
冬の雨は上がって
凪いだ風に
蕾はほうっと息をつき
手折られるそのときを
夢見ている
きみに向けて咲く蕾、ひとつ
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