猪の火之吉の命の道のり/人間
 

猪の火之吉も思春期を過ぎ 肉体の内海に除夜の鐘が響き
沼田場で沐浴する猪の志乃 その芳しき色気にたぶらかされて中出し
落ち葉の窪地に五匹のウリ坊 愛する家族を守り養う火之吉の日々
しかし突然切られた戦いの火蓋 惨憺(さんたん)たる悲劇の始まり始まり

 冬薔薇(ふゆさうび) 藪の陰に腐る卵

背に冬牡丹を乗せ畑を荒らし 荒れた鼻先で芋を掘る火之吉
それを猟師が鉄砲で撃ってさ煮てさ焼いてさ食ってさ まあそれは次の日の話
藪から棒の銃声に ぬたうちまわる火之吉は藪から藪へと闇雲に逃げるがしかし
沸騰したアラレの土砂降りに よく耐えた命は途絶え人影によって引き摺り出され
逆さ吊りにより血抜きされ 捌かれた火之吉は干し柿と並び夢を見る
それを薔薇の藪から見守る五匹のウリ坊の命に獅子の血潮がたぎり
その奥で 志乃は見知らぬ猪と交尾し
その奥で 猟師が報奨金を肴に千本錦(せんぼんにしき)酌み交わす夜
ボタン肉を煮てさ焼いてさ食ってさ
骨と皮だけの火之吉は 収穫を終えた大長みかんの 木箱の横に だらしなく寝そべり
それを木の葉でちょいと隠せ
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