芽吹く/ウデラコウ
の肩を揺さぶりながら そう声をかけました。
私は 酷く不機嫌になって目を覚ましました。
暫く眠れない日が続いていて その日は不思議なくらい良く眠れていたのです。
「あたしに 声をかけていたのは あなた?」
暗闇にぼんやり浮かぶ更に黒い影にそう 問いかけます。
影はそれまで幾度となく私に話しかけてきたのに、そのときだけは静かに一度うなずいただけでした。
「ハジマリなのです。 運命が到着しました。 」
影は人の形をしていて、口元をモゴモゴと動かしながら私にそう告げると
闇の中に解けて行きました。
私は暫く 寒い寒い部屋の中で 全てを振り返りました。
そして 酷く曖昧で不確かでそれでもいとおしい何かをみつけたのです。
それを見つけたと同時に 枕元の電話がうるさいくらいに 鳴り響きました。
ゆっくりと 耳を当てた 受話器から いつもより 僅かに 低い声が 聞こえました。
「言いたいことは 思い出した?」
私は 見えないあなたに向かって一度だけ 深く頷くと
待ちわびた春を 迎えにいきました。
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