蒼カビが生えたらさようなら/蒼木りん
 
なににも負けない柚子の香りにひかれて
家につれて帰った
冬なのに
ここには
まだ雪が降らない
一度も白を見ることもなく
この季節が過ぎてゆく気がする
寝ぼけた春を思い浮かべて
重たい気分になる
湿り気を帯びた
雪の下の土のような
その先の
タンポポのような
わたしはわたしであって好いのだ
という確定と
世間からの逃げともいえる
臆病と怠惰の感
けれど
曇り空よりも
風の日が嫌いになった
揺すられるのが苦手
自分を
世間の歩調に
合わせなくてはと思えば
いつの間にやら
老けた顔になってしまった
柚子や
オレンジは
味覚よりも嗅覚で反応する

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