みかん味の金魚/壺内モモ子
 
で」

私はこの小さなだいだい色の金魚をしぶしぶ持ってかえった。

さてこの金魚をどうしよう。
私には金魚を食べるなんてそんな残酷なことはできない。水槽がないから飼うこともできない。

中村先輩の家の前を通りかかった。

そうだ先輩なら、この金魚を受け取ってくれるはずだ。


ピンポーン


「あれ、どうしたの、梅子ちゃん。もう神社の縁日から帰ってきたの?」
「先輩、これ私の気持ちです」
「え、どうしたのこの金魚。おもしろい色をしているね」
「でしょう、受け取ってください」
「そんないきなり言われても」
「食べられる金魚だそうです。焼くなり煮るなり刺身にするなりお好きなようにどうぞ」
「ちょっと、梅子ちゃん」
「元気に暮らせよ」

先輩に、強引に金魚を渡し、先輩の家のドアを、バタンと勢いよく閉めた。どうせ食べられてしまう金魚に、「元気で暮らせよ」は変だったかもしれない。

夜、私はテレビを見ながらみかんを食べた。
なぜだか生臭かった。
あの、だいだい色の金魚の味がするように感じた。
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