ぼくはきみをしらなかった/船田 仰
 
つむじがふたつある頭を
持ち運びながらぼくは午後を生きはじめる
彼女が泣いていたよ
きみの顔がおもいだせないぼく

きみが縄に手をかけたとき
世界は曇りすぎていたかい
ねえ彼女も彼女ときみのママも
泣いていたんだ
ぼくは思い出せない君をぼんやり
願うしかない
春がきたねえと
話すこともしないままぼくは
きみに出会わずに昨日も一昨日も
曇りだなんて信じてなかったさ

何度かすれちがったかもしれないきみが
揺れてるとこを見た彼女が
泣いてるよ
みあげて、みあげて、
白っぽい世界からちぎれとんでいったきみを
あいしてたと
とても
彼女もママもそしてきみも
ぼくからは
とおくって
だからぼくは感じ入ったようにうつむいて
スパゲティなんかを食べながら
ベーコンの感触を確かめてる
そういう事実をたしかめてる
曇ってなんかない空がある日にも
ぼくはそれから始めたりしない
彼女たちのこえが聞こえているから
明日の午前まで、ぬくぬくふくらむ午後を
カーテン開けた部屋でおしかえすよ
もう風がすごくぬるいんだよ
ぼくはきみをしらなかった
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