影追い/夕凪ここあ
 
車窓から眺める景色は
ゆっくりとスピードをあげながら
めまぐるしく通り過ぎていく
あの夏が加速するのと同じように

このまま行けば海に出る

何の脈絡もないまま
手ぶらで電車を乗り継いで
君の手を握ると少し汗ばんでいる
窓に差し込む夕日が
伏せ目がちな君を包んで消え入りそうで
一回り小さな手を強く握った
あるいは
君の色素の薄い
寂しげな瞳のせいかもしれなかった

目を覚ますと
人気のない車内にひとりきり
夕日に包まれる手のひらは
あの夏のように汗ばみ
一体どこに向かうというのか
君の速度はここにはない

停車駅が近づき
重い窓を開け放つと
背伸
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