くろひとえ/ピクルス
電話ボックスの中で膝を抱えていたね
名も知らぬ群青の子
あの人に前髪を触られたい
そうして
あの人は鶏頭の花に口を寄せるんだ
あたしは
まだよちよち泳ぎながら
アールとエルの発音が区別できないでいたの
駅、階段、笑顔ポスター
賑やかな靴音に
そっと耳を塞いで座るベンチ
あの人にあげようと買った花を
浮浪者のオジサンにあげて仕舞ったけれどいいよね
この世のものとは思えないアナウンス
発車のベルが鳴り響く
人波に押されてオバアチャンが転んだ
大丈夫ですか
と、手を差し出したら
ふん、そのテにゃのらん
オバアチャンは油断のない眼をして
あたしを睨
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