はぐ/夕凪ここあ
 
やさしいけもの

おんなじ日に生まれて
いつでも一緒
やさしいけものは
決して箱の中から出してはいけない
それが母親との
唯一の約束であったし
幼いわたしは
約束の文字が
なんだかこわかったから

いちばんに覚えてること
夕日が何よりも好きなやさしいけものの
箱の小さな穴からのぞく
橙色にきれいに染まったあたたかな瞳の色

やさしいけもの
夢を見てるあいだに
悲しいことや寂しい気持ちを
ありったけのやさしさで
抱きしめててくれてたことを知ってたよ

「けもの」
箱の中は狭くって暗くってうまく生きれない
いつだって言葉のイメージが足にまとわりついてる
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