■批評祭参加作品■ 「父さん」櫻井雄一/たりぽん(大理 奔)
 
「僕」は「お父さん」という遠い日の影を背負って、羽田行きに乗るのだろう。

 飛行機での移動は、目的地への所要時間においてこれほど早いものはない。東京、という「場」への移動としてこれほど便利なものはないのだ。しかし、それはあくまでも「体」の移動時間にすぎない。時間地図の歪んだ世界においては「心」の移動時間は無視される。「心」の移動時間を指標とした時間地図があったとして、その二つを重ねて見てみたい。そうすれば、この詩の最後に残された不確定な切実さの測るべき距離が見えてくるのではないだろうか。「僕」は飛行機で素早く東京に到着するだろう。そして長崎から東京に「切実な思い」が届くまでの空白の距離を。

「父さん」はそんなことを私に感じさせてくれた。




傷つき疲れ、東京から故郷に帰るときはなるべくゆっくりと帰る方法を選ぶのがいい。早く帰りたいと思っていても、だ。東京に行き、夢を叶えるためにどれほどの距離を飛び越えてきたのかを知るためにも。


(文中敬称略)
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