■批評祭参加作品■ 「父さん」櫻井雄一/たりぽん(大理 奔)
 
しくは物語が空港を舞台にするとき、帰ってきた者もしくはこれから旅立つ者(あるいは見送る者・迎える者)のどちらかの視点から描かれることが多いのではないだろうか。しかし「父さん」のなかでは主人公は「僕」でありながらどちらの立場なのかは、どこか曖昧なままだ。それがこの詩の、単なる親子の葛藤ドラマではないステージを用意していると感じさせる。
 
 父親に、おそらくいままでにない優しい言葉をかけられた息子は泣き崩れ、母に抱き起こされる。ということはまだこの親子は搭乗待合室に入る前なのだろう。一歩一歩距離を測るように搭乗待合室で最終案内を聞く「僕」は空の向こう、東京への切実な思いを見つめる。旅立つ者の決意
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