軽便/ねなぎ
 
汽笛の音が聞こえた気がした
汽車などとうに走ってないと言うのに

空っ風が聞こえたのだろう
と思う間もなく年を越していた

この部屋が時間を止めてから
どの位経つのかは解らないが
間抜けにも気が付かず
いくばくかの米を食い
久しぶりに隣のお婆さんに挨拶をした事で気が付いた
と言って
どうなる訳でも無く
米が餅に変わる事もない

窓の外では
子供等が走っている
汽車に遅れてしまうのだろうか

風は強く鳴り
身を締めるほどに
定刻通りに
発車していく

笑い叫ぶ声を聞きながら
寒さに震えて汽車を待っている
いくばくかの餅を用意しないと
帰って来ないだろうか

時間を失くした部屋から
帰らない汽車を思っている
この道が線路だった事を
知らない子供達が
汽笛の中を走って行く
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