断片集/吉田ぐんじょう
・
ずいぶん昔
わたしたちは恋人同士だった
あんなにも完璧に
理想的な形で
つながっていたのに
満月の夜だっただろうか
わたしが
あの柔らかな部屋から
いとも容易く
追放されてしまったのは
一緒に流れ出した羊水は
外気にふれると
途端に厭なにおいをたてたから
もう
何だか
泣くしかなかった
・
男の人は
抱きしめると
掌くらいの大きさの
さびしい林檎になってしまう
女の人は
くちづけると
六月くらいの大きさの
青い水たまりになってしまう
・
君のスリッパが
学校の焼却炉の前に
ぽとんと脱ぎ捨てられていた
まだ温かい炉の中には
少しだけ白い灰が残っていた
空を見上げて笑っているような
それは
マイルドセブンのにおいがした
戻る 編 削 Point(13)