初雪/ピクルス
 
 
初雪の日には
浮き世に慕情
あいかわらず
と笑いながら
かのかおりに
御辞儀をする

ほしいものがない人に
ほしいものはない人に
新聞紙に包んだ焼き芋を
押し付けるように手渡したい
それができたらいい

夜はみどり
水鳥は自害寸前の
思い詰めた顔で
やわらかな羽を拡げた
夜はすみれ
説明なんかするな
全身が耳になって指になって心臓になって
なんもかんも、くれてやる

初雪を踏むと
妙に敬虔な気持ちになる
覚悟と決意に殉じて
息を吹き返す臆病な怪物
ちっとも巧く喋れない彼が
君を抱き締めた時
彼は嬉しそうに哭いた
君の部屋のもの達全てが妖精になって彼の手を握った

それからは
一緒に風呂に入った
湯気には消えてゆく侘しさがある
湯気には待っている幸せがある
どちらにも知らぬ顔をして窓を開けた
ほら、
雪だよ



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