三日月/船田 仰
空に挟まった三日月が目覚めて
非常階段でぼくはお腹のあたりを気にしてる
睫毛に乗っかるすばやい冷たい、風速は冬
あいかわらずきみは頭上に世界を背負ってるんだろう
右肩にだけ残る重み
まばたき、風速三日月より凛
丁寧にすべらせた両足のさきっぽで
たぶんいくつかの信号を無視していて
だからさみしく生命線より長い沈黙
耳元で
あかりっぽい街の感触をつかむ
ひとりだから
沈黙は無言にはならない
グラスの中で所在無さげな氷が音をたてる
からん
溶けきれないよねぇ
きみの前髪がウェーブして
ぼくのはじっこをつかんでくれるのを待っている気がしてる
からんからん
何本か既に据えられてしまった柱が
十二月の視界をちらほら横切るもんだから
咳払いもうまくない
三日月のうえとしたにわだかまる空
面接されるのは、風速冬で
おなかのあたりをかすめる帰り道までのやさしさ
そしてかえりみちのやさしさ
は
言い訳もなく今日を明日にして
溶けきれずそこに浮かんで
抜けてゆく
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